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研究発表

研究発表


第23回日本抗加齢医学会総会において、女性のエイジングとマイクロバイオームの変化からみた新しい女性ヘルスケアの展望について発表がありました。

女性のエイジングとマイクロバイオームの変化からみた新しい女性ヘルスケアの展望について

2023年6月9日(金)東京国際フォーラムで、「第23回日本抗加齢医学会総会」が開催されました。女性更年期シンポジウムの中で、パネリストからは、フレイル対策、物忘れ・認知症への予防、GSM(閉経後尿路性器症候群)に関する講演等、幅広いテーマで発表がありました。吉形医師からは、「女性のエイジングとマイクロバイオームの変化からみた新しい女性ヘルスケアの展望」と題して、腸内と腟内環境を良好に保つことの大切さと更年期以降に起きる腟と腸内マイクローバイオーム(細菌叢)のクロストークについて自験例をもとに発表が行われました。

エクオールと産生能と腸内細菌叢について

人体は無菌状態である胎内から出生により外界と接触し、出生直後から全身の皮膚(口腔、鼻腔、腸内、腟内など)は微生物にさらされています。その後環境に適した細菌叢が定着し身体の各部位で常在細菌叢を形成します。「マイクロバイオーム」とは、微生物の遺伝子情報を含めた概念で、集団がおかれた環境(微生物叢)のことを指します。

ヒトマイクロバイオームは、「免疫系の調節」「栄養素の分解と代謝」「空腹満腹シグナル伝達」などの作用を有しており、消化管(腸内)に最も多く存在しています。体内のあらゆる部位に存在し、良い働きをするものと、悪い働きをするものがあります。
腸内で良い働きをするものの中で代表的なものとしてエクオール産生菌があります。腸内の日和見菌や善玉菌から複数発見されており、これらの総称を「エクオール産生菌」と呼んでいます。エクオール産生菌が活発に働いている人では、女性の更年期症状の軽減や、骨量減少や動脈硬化のリスクの低減、男性にとっては前立腺疾患のリスク低減などさまざまな優位性が示されています。

【自験例1】

エクオール産生能の生活習慣病関連リスクの軽減効果について、健常女性を対象として各年齢層別に比較検討を行った。

エクオール産生能の有無により、内臓脂肪面積や各種生活習慣病関連パラメーターを20~80歳代の年齢層別に比較した研究では、閉経後早期のエストロゲン減少世代である50~60代において、エクオール産生者は非産生者と比べて体脂肪率、内臓脂肪面積、中性脂肪、血圧脈波(PWV)やホモシステインをはじめとする動脈硬化関連因子、尿酸、骨吸収マーカーなど複数のパラメーターが優位に低値であったという結果でした。
                  Remi Yoshikata, et. al. Menopause. 2017
【自験例2】

エクオール産生能と腸内細菌叢および食習慣・生活習慣の関連を調査し、エクオール産生能への影響因子について検討した

エクオール産生能と腸内細菌叢および食習慣、生活習慣について閉経後女性58例を対象とした調査研究では、エクオール産生菌は対象者のうち97%に存在したが、エクオール産生能を有する者は22%であり、エクオール産生菌があっても働いていない状態が多く存在することが分かりました。またエクオール産生能は腸内細菌の多様性と強い関連が認められ、エクオール産生菌を働かせるためには、腸内細菌叢が多様性を保てるような食習慣、生活習慣がカギとなることが示唆されました。           
                  Remi Yoshikata, et. al. Menopause. 2019

ライフステージで変化する腟マイクロバイオーム

ライフステージにより腟マイクロバイオームは変化をしていきます。
幼少期~思春期前:PH中性・ラクトバチルス低↓
性成熟期~閉経前:PH酸性・ラクトバチルス高↑
周閉経期~閉経:PH酸/中性・ラクトバチルス低↓
閉経後~:PH中性・ラクトバチルス低↓<腟マイクロバイオームは多様性>

引用:吉形玲美 日本総合健診医学会第51回大会発表スライドより抜粋

腸内細菌は多様性の環境がよいが、腟内はラクトバチルス属を主体とする単一環境が良く、腸内と腟内は真逆の関係といえます。ラクトバチルスの産生は、エストロゲンに依存しており、閉経後に加え月経中はエストロゲン量が低いので、ラクトバチルスが欠乏し、雑菌や病原菌が増え多様性の環境になりやすくなります。

腟マイクロバイオームと女性の健康
∟①性感染症リスク
ラクトバチルスが優位であるほど子宮がんリスクであるHPVのほか 、HIV、HSV(単純ヘルペス)、淋菌、クラミジア、トリコモナスなど性感染症の感染および獲得リスクは低くなります。
Witkin SS. et al. Infuluence of vaginal bacteria and D-and L-lactic acid
Isomaers on vaginal extracellular matrix metalloproteinase inducer:
Implications for protection against upper genital tract infections. Mbio. 2013

∟②婦人科がんとの関連
発がんのメカニズムに関しても、腟内細菌叢が影響しています。ラクトバチルスが豊富だと子宮内膜や卵巣における発がん性が抑えられることが報告されています。
BJOG: An International Journal of Obstetrics & Gynecology, Volume: 125, Issue: 3, Pages: 309-315, First published: 09 March 2017, DOI: (10.1111/1471-0528.14631)

腟内と腸内細菌叢のクロストーク(マイクロバイオームの情報伝達相互作用)

【自験例3】
腟内・腸内細菌叢におけるエイジングによる変化と影響因子・クロストークについての検討  Age-Related Changes, Influencing Factors, and CrosstalkBetween Vaginal and Gut Microbiota:A Cross-Sectional Comparative Studyof Pre- and Postmenopausal Women.
Remi Yoshikata, et. al. JWH. 2022 https://doi.org/10.1089/jwh.2022.0114

引用:吉形玲美 日本総合健診医学会第51回大会発表スライドより抜粋

エイジングによる腸内細菌、腟内細菌の変化
腸内細菌は年齢とともに変化するといわれていますが、本研究では大きな変化はみられませんでした。一方で、腟内細菌は非常に変化していて、未閉経群(Premenopausal women)と閉経群(Post-menopausal women)では、ラクトバチルスが含まれるグラム陽性菌が閉経群では減少し、一方で病原菌の割合が増えていることが示されました。
腟と腸内細菌叢はクロストーク(マイクロバイオーム情報伝達相互作用)をしていることが知られています。特に閉経後では腟内でほとんどラクトバチルが作られなくなりますが、閉経後では閉経前に比べクロストークによる影響が強い傾向が認められ、ラクトバチルスが存在する場合そのほとんどが腸由来であることが分かりました。その他、未閉経群では、エクオール産生能の高い人が、ラクトバチルス率の上昇に寄与する可能性が高いことも示されました。

【自験例4】
ラクトバチルス乳酸菌含有素材のフェムゾーンケアよるGSM改善効果と腟マイクロバイオーム変化についての検討
Evaluation of the efficacy of Lactobacillus-containing feminine hygiene products on vaginal microbiome and genitourinary symptoms in pre- and postmenopausal women: A pilot randomized controlled trial.
Remi Yoshikata, et. al. PLOS ONE. 2022
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0270242

健康成分ラボ 第51回日本総合健診医学会発表

マイクロバイオームから考える女性のヘルスケア

① 腸内マイクロバイオームから考えるヘルスケア
・腸内細菌の多様性を保つ
∟エクオール産生能を高めるだけでなく、その他の良いポストバイオティクスを産生することにつながるライフスタイル(食事、運動習慣、禁煙、お酒控えめ)が重要です。

② 腟内マイクロバイオームから考えるヘルスケア
・経腟プロバイオティクス(ラクトバチルスを腟内に維持する)
∟腟の善玉菌を維持する。直接的で適切なフェムゾーンケア

腟、腸に限らず全身臓器間でのマイクロバイオームのクロストークの概念は、新しい治療戦略として注目されています。腸・腟間のクロストークは、特に閉経後に密であることが示されました。腸内環境を良く保つ食習慣や運動習慣を心がけ、エクオール産生能を高め、良いポストバイオティクスを産生するライフスタイルを継続すること。そして、腟の善玉菌「ラクトバチルス」を維持するために「経腟プロバイオティクス」として専用のケア製品を継続して活用することが大切です。腟・腸内の善玉菌とされるマイクロバイオームを育て行くことが更年期症状や生活習慣病リスク、婦人科がんリスクの低減、GSM改善など包括的な女性ヘルスケア対策としてとても重要と考えております。

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